Advisory Research, Inc.
Drew Edwards氏インタビュー

interviewer:橋本 あかね(HCアセットマネジメント㈱ 常務取締役 運用部長) photographs:佐藤 亘
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Q1. Drew様がお持ちの投資哲学と運用の特色についてお聞かせください。

Q1. Drew様がお持ちの投資哲学と運用の特色についてお聞かせください。

 我々はバリュー投資家です。我々の投資哲学は、複利収益率を計算する際に見られる不均整という単純な数学的事実に基づいています。100円の投資が50円になった時のリターンは-50%ですが、50円を元の100円に戻すには+50%ではなく+100%のリターンが必要だという事実です。我々は、リスク及び損失を最小化する事で長期的なリターンを確保するという哲学に基づき運用しています。
 投資の際には、まず「この銘柄のダウンサイド・リスクは何だ」と自問し、3つの基準によりダウンサイド・リスクの最小化を図ります。
 まず第一に、企業の持つ資産価値を過大に越える投資はしません。つまり、企業の純資産価値と比較して魅力的だと思われるプライスで投資します。特に、清算価値以下のバリュエーションで投資する事が好ましいと考えています。
 次に、資本が潤沢な企業に投資する事で、ファイナンシャル・リスクを押さえます。レバレッジが高い資本構造は、流動性リスクやソルベンシー・リスクを抱えていますので、そういった銘柄は極力避けます。最近の金融危機で見られる様に、事業継続の為に金融市場から資金調達をしている企業は、不確実な環境下では資金調達リスクが非常に高くなりますので、資本構造は重要な要素です。
 さらに、企業のビジネス構造や経営陣の考え方、その他競合他社や市場状況を把握する事により、ファンダメンタルなビジネスリスクを最小化します。企業の持つテクノロジーやビジネスモデルが、理解するのが困難なようなものの場合、投資を避けます。また、経営陣や他の株主の考え方を理解するのも、非常に重要だと思っています。例えバリュエーション上魅力的な投資機会だったとしても、経営陣が株主の意向と衝突する様な行動を取る企業は避けるべきと考えています。
 ダウンサイド・リスクの精査が完了した後に、アップサイドを検討します。我々は、現在のバリュエーションが過小評価されていると経営陣が認識し、資産の合理化や資本政策の改善、国際化戦略やコストカットなど、バリュエーション・ギャップを埋める為の施策を打ち出している企業を求めています。

Q2. 日本株投資に踏みきれないでいる投資家にとって、日本株投資への勇気が出てくるような話をお聞かせください。

Q2. 日本株投資に踏みきれないでいる投資家にとって、日本株投資への勇気が出てくるような話をお聞かせください。
 ARIでは全世界の市場において魅力的な投資機会を追求していますが、他国と比べて日本には非常に割安で魅力的な投資機会がたくさんあると考えています。
 まず、日本株のダウンサイド・リスクは非常に限定的だと考えています。長引く金融危機や世界的な景気後退によりマクロ環境が今よりも更に悪化した時、割安で、磐石な財務諸表を持ち、高配当で、高いマーケットシェアに裏付けされ確固たるビジネスモデルを持つ日本株は、下支え要因となる筈です。欧米では始まったばかりの金融リストラも、日本企業は既に20年にも亘り行って来ました。日本の金融機関や企業は数年前と比べると、概してより強固な財務体制と効率的なオペレーションを行っています。
さらに、日本株はアップサイドの魅力も秘めていると思います。今後、高レバレッジな他国企業が縮小を余儀なくされる一方、強固な財務体質を持つ日本企業は投資拡大していく事が可能です。また、破産寸前の企業から好条件で資産を獲得するケースも考えられます。こういった手法で、現在眠ったままの資本を活用する事により、ROEの改善および企業成長が見込めます。
現在の日本を取り巻く投資機会は、色々な意味で、1980年代の米国を連想させます。割安、磐石(すぎる)財務諸表、コングロマリット企業の合理化による価値創出、そして大恐慌や第2次世界大戦世代の保守的な経営陣から、攻めの姿勢を持つ経営陣への「政権交代」など、共通点が多数みられます。
 最後に、特にボトムアップ手法を取る投資家は、日本市場における非効率性をうまく活かす事が出来ると考えます。海外でADRを発行する様な大型株は、投資家のカバレッジも多く、必然的に非効率性も少なくなりますが、日本の中小型株には注目している投資家が少なく、ミスプライスが多く見られます。これは恐らく、一つ一つの企業を細かく精査する海外投資家が日本市場にはまだ少なく、セルサイドアナリストのカバレッジに頼るケースが多いからだと思われます。

Q3.  海外投資家の目から見た海外投資家の投資動向とまたその影響を避けてより確実な運用結果を出す方法についてお聞かせください。

Q3.  海外投資家の目から見た海外投資家の投資動向とまたその影響を避けてより確実な運用結果を出す方法についてお聞かせください。
 日本株に投資する海外投資家と話す機会は沢山ありますが、日本株投資で悪戦苦闘している投資家は2タイプに分けられると思います。
 まず第一に、グロース投資家です。どの市場でも、企業の成長期待にかけて高いバリュエーションで投資するのはリスキーですが、日本はその典型と言えるでしょう。事実、恐らく他のどの市場よりも日本ではバリュー株がグロース株をアウトパフォームしています。
 次に、割安なバリュエーションに固執するあまり、コーポレートガバナンスなどの定性面での適切な判断が出来ていないタイプです。米国や英国の様に、市場がコーポレート・コントロールの役割を果たしている場合、経営陣が慢性的な働きしかしない様な状況を市場が是正してくれる事が期待できます。企業の本質的価値よりも常に低い価格で取引されているような企業は、その資産をより有効活用できる相手に買収される可能性が非常に高くなります。この様なマーケットのメカニズムが、規律とバリュエーションギャップの是正という役割を果たしています。このコーポレート・コントロールの役割が、日本では上手く機能していません。実際に、日本の企業で怠慢な働きしかしていない場合でも、他市場と同レベルで市場規律に晒される事はまず見られません。よって日本株に投資する場合、経営陣の考え方や株主構成、財務戦略を考慮する事が非常に重要になります。例えば上場子会社の場合、経営陣の意識が自社の価値最大化よりも親会社の価値を高める方向に向かっているという事が往々にして起こります。同様に、オーナー会社の経営陣は、経済的なリターン創出よりも後継者争いや相続計画等に意識が向いている場合があります。経営陣が株主を蔑ろにしつつ、このような内向きな動機による行動を取った時、株主としては大変失望します。従って、日本でバリュートラップに陥らない為には定量分析以上に経営陣の考え方や戦略、株主構成を分析することが非常に重要だと思います。

Q4. 創業の想いについてお聞かせ頂けますか。

Q4. 創業の想いについてお聞かせ頂けますか。
 Advisory Research, Inc. (ARI) は、創業者の哲学に賛同する限られたお客様にサービスを提供するため、1974年に設立されました。この哲学は、市場が下落基調の時には資金を保全し、上昇基調の時にはそれと同等のリターンを得る事で、長期的なリターンを確保するという考えに基づいたものです。現在もそうですが、当時はほとんどの投資家がグロースや将来の収益予測に基づいたバリュエーションに重きを置いていました。我々の創業者は、将来の収益やキャッシュフローを正確に予測する事は不可能だという考えのもと、財務諸表ベースのバリュエーションの重要さを説きました。ARIが設立された後、この手法を長期的に採用した場合に優れたリスク調整後リターンを獲得できることが、ファーマ&フレンチによって学術的に証明されました。
 現在では、ARIは年金や大学基金、財団などのお客さまに従事し、約70億ドルを運用しています。また米国のみならずインターナショナルやグローバルへ地域拡大をしていますが、投資哲学やプロセスに関しては創業来一貫しております。

Q5. 運用の仕事に携わろうと思われたきっかけについてお聞かせください。

Q5. 運用の仕事に携わろうと思われたきっかけについてお聞かせください。
 私は昔からビジネスや投資に興味を持っていました。1980年代、私がまだ高校生の頃、友達がスポーツイベントに夢中なのと同様、私はウォール街プレーヤー達に夢中でした。特に興味を惹いたのは、当時同じ町に住んでいたブーン・ピケンズという石油王です。ピケンズは当時石油試掘者でしたが、油田で石油発掘するよりもウォール街でエネルギー株を買った方が安いという事に気付いたのです。私は、著名な投資家が地元の政治家と投資行動について議論する様な公聴会の場に、学校をさぼって参加するほど1980年代の投資家について出来る限り学びました。この時私がウォール街プレーヤー達から学んだ事が、運用の仕事をするきっかけとなっています。また、資産ベースで見て割安な企業に投資をするという哲学にも影響しています。
 さらに高校時代、私は日本のビジネス慣行や高度経済成長にも強く惹かれました。結果として、東京の大学へ進学し、それ以来日本は私の人生にとって重要な部分となっています。
私は、自分の投資哲学と日本への深い興味を同時に活かす事が出来、大変恵まれていると思っています。最近では、よりグローバルな観点から日本を分析する事を心がけています。これは日本が今後ますますアジアに進出していくに当たり重要な視点だと思っており、私にとっての日本株の魅力度は、グローバルな観点からして益々高まってきています。

Q6. 投資に関するお奨めの書籍を1冊ご紹介頂けますでしょうか。

Q6. 投資に関するお奨めの書籍を1冊ご紹介頂けますでしょうか。
 投資に興味があるすべての人に、GrahamとDoddによる「Security Analysis」をお薦めします。Benjamin Grahamはバリュー投資の父と言われており、この本に書かれたGrahamの教えは、成功している投資家たちの礎となっています。
 また、Seth Klarmanの「Margin of Safety」も非常に良い本です。この本は、バリュー投資家からカルト的な支持を集めていますが、残念ながら現在は絶版となっています。この本のファンは初版に数十万円支払うと言われています。
 最後に、James Montierが書いた記事を集約した本で、「Value Investing」も面白い本です。Montierによる行動ファイナンス議論は、なぜ市場が、ビジネススクールで教わる現代ファイナンス理論に沿わない行動をするのかを理解するのに役立ちました。またMontierは本書で、VARやDCF等の現代投資手法における非理論的な手法を批判しています。

Q7. 主に業務に関する情報収集の為に、毎日チェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。

Q7. 主に業務に関する情報収集の為に、毎日チェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。
 日々、ブルームバーグで投資先企業やマーケットに関するニュースを読む事から始めます。その後、Eメールで送られてくるファイナンシャル・タイムス、ウォールストリート・ジャーナル、日経新聞等のニュースをチェックします。週刊誌としてよく読むのは、エコノミストと日経ビジネスです。
 これ以外にもトレード・ジャーナルやアナリスト・レポート、産業レポート等目を通す情報はきりがありません。情報の波に埋もれてしまうのはこの業界では簡単ですが、私は投資先企業の経営陣や顧客、競合相手等からじっくり話を聞く時間を設ける事も非常に大切だと思っています。日本の魅力的な投資先について、ドイツや韓国、中国といった国の競合他社、顧客、サプライヤーから情報が得られる場合もあります。

インタビュー後記

インタビュー後記
社会に必要なモノやサービスを提供し、品質向上を追求し続ける企業群があり、そうした企業 活動を支援する投資家があり、両者が出会う場所が株式市場である。
いわば当たり前のことなんですが、運用会社の役割や投資の意義を再確認するインタビューとなりました。
是非みなさまも”出資者”の気分を実感してください。








インタビューは以上になります。



リスク・手数料などの重要事項に関するご説明