Sit Investment Associates
Bryce A. Doty氏インタビュー

interviewer:橋本 あかね(HCアセットマネジメント㈱ 常務取締役 運用部長)
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Sit Investment Associates社の投資哲学、期近MBS(10年以上前に発行された不動産担保証券)を専門にした経緯、運用の特色についてお聞かせください。

 一貫して優れたリスク調整後リターンを追求することが我々の投資哲学です。金利収入と元本価値の安定性を重視し、高クーポンの期近エージェンシーMBS(米国政府支援機関保証付のMBS)へ投資することにより、この目標を達成できることがこれまでの経験から示されています。
 この投資哲学の考案者であり、最高投資責任者兼社長のMike Brilleyは、1980年代にこの戦略を考案しました。彼は一部のMBSの利率が、実勢ローン金利と比べてかなり高いにもかかわらず、なぜ人々は、より金利の低いローンに借り換えようとしないのかについて理由を探りました。詳しい調査の結果、住宅所有者が借り換えを選択するよりも、金利の高いローンを払い続ける原因は、借主側の事情とローンの特性にあると判断しました。
 さらに重要なこととして、彼はこうした証券は価格変動が小さいことに気がつきました。高水準のクーポン収入とポートフォリオ価格の変動の少なさは、優れたリスク調整後リターンにつながります。これはSit Investment Associatesの投資哲学と一致するものでした。
 この戦略は私とMark Bookという2人のポートフォリオマネジャによりさらに強化されました。我々は住宅市場が拡大し、より複雑化する中で、期近MBSにさらなるチャンスを見出しました。この戦略のポイントは、期前償還の水準が低く安定している証券に投資することです。わが社のチームはこの特性に合致する証券を見出すことができます。

今注目している投資機会について教えてください。

今注目している投資機会について教えてください。
 我々はボトムアップ型のポートフォリオ構築を行い、繰上げ返済の水準が安定していて金利収入が高く、価格変動の少ない証券を購入しています。投資戦略としては、どのような金利環境においても、主として高クーポンの期近エージェンシーMBSでポートフォリオを構築することです。わが社はモーゲージ市場の中で、この特定な分野だけに特化した8~10社から構成されている、業者間のネットワークを通じてこれらの証券を購入することができます。常にこれらの証券を求めていることから、わが社が真っ先にそれらを買う機会を与えられることも少なくありません。これらの証券を一貫して利用していることが、我々が有利な利回りとデュレーションを持つポートフォリオをタイミングよく構築できるカギなのです。
 現在の低金利環境下で、我々は金利上昇リスクをヘッジすることにより、いっそうポートフォリオのボラティリティを抑えています。しかし、金利が下がればヘッジを外します。金利の低下局面では、短中期の米国債を買い入れることにより、ポートフォリオのデュレーションを若干長めにする可能性もあります。
 重要なこととして、我々は金利サイクルの全ての局面を通じて、高利率の期近エージェンシーMBSの組み入れ比率を最低でも75%維持するつもりです。

ポートフォリオマネジャになろうと思われたきっかけをお聞かせください。

 投資が幅広い組織や人々に多くの利益をもたらすことに気づいた時、私はポートフォリオマネジャになろうと決心しました。
 ポートフォリオや市況について話し合うミーティングの際、我々がもっとも誇りに思っていることについて、お客様から尋ねられることが時々あります。そのような時は、ポートフォリオの運用実績を誇りに思うとお答えします。我々は投信を通じて、個人のお客様の資金を運用していますが、利益を上げれば上げるほど、多くの物やサービスが消費されるわけです。わが社は、慈善目的の信託や財団の資金も運用していますが、我々が多くの利益を上げるほど、恵まれない人々により多くのサービスが提供されます。加えて、わが社は年金基金の資産も運用しています。利益を上げることで、人々の引退後の生活を改善することができます。保険会社の資産を運用する場合には、我々が多くの利益を上げるほど、お客様に対して、よりよいサービスが提供されます。
 つまり、人々の生活水準向上を図ることができることこそが、私がポートフォリオマネジャをしている理由であり、もっとも誇りに思っていることなのです。

ポートフォリオマネジャとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。

ポートフォリオマネジャとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。
 ポートフォリオマネジャとして成功するには、教育と経験のほかにも必要なものがあると考えています。お客様の投資目的の達成のために、次の3つの言葉を常に頭に置くようスタッフに話しています。
・確信
・行動
・規律
 経済や金利やインフレ、財政政策や金融政策について確信を持つことが大切です。債券の資本構造、企業の財務状況、特定のローンの延滞状況等について詳細を理解し、さらに将来の見通しについて確信することはきわめて重要です。
 アナリストやポートフォリオマネジャが、将来のトレンドと、そうした投資環境下において、どの証券が良いパフォーマンスを上げるかに関して確信を持ったならば、今のポートフォリオに含まれる証券が、仮に資産をすべて現金で持っていた場合に、ポートフォリオに買い入れるであろう証券と大きく異なっている場合には、何らかの行動を起こす必要があります。これは投資環境が変わった時、ポートフォリオマネジャが最適とは言えないポートフォリオに固執することを許さない姿勢につながります。
 この場合における規律とは、ポートフォリオ内の個別証券を売却する際に、どのような条件が必要であるかを理解することを指します。一定の投資期間、特定の金利水準、企業の利益水準や格付け、イールドカーブの形状の変化、またはこれらの組み合わせ等、証券がポートフォリオにおいて期待された目的を果たす為に必要とされる要素があります。証券を買い入れる時点でこれらを知っておくことは、様々な望ましい出口戦略を想定した、売却に関する規律を身につけるのに役立ちます。
 最後に、少なくとも普通より一歩先を考えることが大切です。平凡なチェスの指し手であっても、三手先を考えることで、二手先までしか考えない優秀なチェスの差し手を負かすことはよくあるという話を部下たちにも話しています。
 しないと決めていることについてですが、私は自分が完全に理解できない証券には投資しません。さらに、お客様に説明できないような商品に投資するのも賢明ではないと考えています。また、たとえガイドラインで認められている証券であっても、お客様にとってリスクが高すぎ、リスク水準がお客様の投資目的にそぐわないと判断した場合には、投資しないことにしています。実行した取引よりも、しないと決めた取引のほうがずっと重要であると私は考えています。

どのようにしてお客様の資産保全を図るかお聞かせください。

 お客様の資産保全を図る最善の方法を考えるにあたって、お客様それぞれの投資目的を理解することが大切です。ベンチマークは目安としては有用ですが、ポートフォリオの制約、そして投資ガイドラインの精神や意図について知ることのほうがより大切です。
 お客様の資産保全のためには、個々の証券に関する詳細な分析も、非常に大切であると我々は考えています。なにか問題が生じた時、もっとも重要なことは、細部にあるからです。例としては、社債のコベナンツ条項や、複数のトランシェから構成されている仕組み債における、キャッシュフローの分配ルールなどが挙げられます。
 我々にとっては、金利サイクルを経てきた既発証券を利用することが重要です。通常、ウォールストリートが新たに開発した商品は利用しません。また、CDOのように複数の証券が組み入れられた証券も同様です。パッケージ化された証券を買うよりも、ベストな証券を個別に買いたいからです。
 予測可能な安定したキャッシュフローがあり、同程度のデュレーションを持った米国債よりも、概して価格が安定した証券を探します。金利低下局面における価格上昇はそれほど期待できないものの、金利上昇局面では保全につながるからです。お客様の中には、資産価値をさらに保護すべく、ポートフォリオのデュレーションをヘッジすることを認めてくださる方もいます。その際には、米国債先物の空売りによってデュレーションをヘッジします。

投資に関するお奨めの書籍とその理由を教えてください。

投資に関するお奨めの書籍とその理由を教えてください。
 マイケル・E・ポーター著『国の競争優位』を愛読しています。この本に記されたマクロ概念をミクロ経済の問題や地域内の競合他社、さらには政治や投資家の行動に影響を及ぼす心理学的・文化的な問題にあてはめるのが好きだからです。
 アイン・ランド著『肩をすくめるアトラス』も愛読しています。資本や資源の自由な流れの大切さが表現されています。
 また行動ファイナンスをテーマにした記事や研究を読むのが好きです。というのも、リスクとリターンの関係がどれだけ市場に織り込まれるかを決定づけるのは、人間の感情であると考えているからです。これを理解することは、純粋な効率的市場仮説の欠陥を補うのにも役立ちます。大学で学んだ心理学のほうが多くの金融の授業よりも役立ったと時々冗談で言っているほどです。
 また、新人アナリストには、ウォール街の短期的インセンティブがお客様の長期的な投資目的といかにかけ離れているかを理解してもらうために、マイケル・ルイス著『ライアーズ・ポーカー―ウォール街は巨大な幼稚園』を読むよう奨めています。

定期的にチェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。

 私はほとんど毎日ウォール・ストリート・ジャーナルに目を通し、最新の経済データに関するその日のトップニュースをブルームバーグでチェックしています。独自の結論と戦略を導き出すために、その他の出版物はほとんど見ないようにしています。ほかの誰かによるデータの分析をもとに自分の意見を組み立てるよりも、経済データの出所に直接アクセスするほうがよいと思っています。私が記事を読むのは、主として世論の風潮を感じ取り、驚くべきニュースと思われるものに対して市場がどう反応するかを、よりよく予測できるようにするためです。最良の投資機会が生まれるのは、多くの場合、あるトレンドが終わると同時に新しいトレンドが生まれつつある時であり、そこに意見の相違が生じる時です。以下は、私がよく利用しているデータ・ソースの一部です。

連邦住宅抵当公社(ファニーメイ):www.fanniemae.com

連邦住宅貸付抵当公社(フレディーマック):www.freddiemac.com

米国勢調査局:www.census.gov

米国労働統計局:www.bls.gov

全米リアルター協会:www.realtor.org

米国抵当銀行協会:www.mbaa.org

 ただし、ほぼあらゆるデータには欠陥があり、また景気サイクルの局面によってその有用性や正確性にばらつきがあることに注意が必要です。これらの欠陥を理解し、さらには欠陥を逆に利用することが大切です。





インタビューは以上になります。




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