2016年10月18日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.106『非流動資産投資の魅力』セミナーレポート

HCセミナー

■動画ダイジェスト



流動性の意味の再考
 流動性を考える上で重要なことは、物がすぐに売れるかどうかではなく、売却時の損失の大きさである。100円の物が30円になったとしても、売ること自体は可能であるが、70円ものコストがかかってしまうと売れたとは言えず、流動性があるとは言えない。このような流動性の本質的な意味を考えると、流動性があるかどうかは、投資環境と、投資家の能力に依存する。ここでいう投資家の能力とは、長期間動かさなくてもよい資金を捻出できるような経営能力のことを指す。例えば、預貸率が80%でつつがなく経営がなされている銀行があるとする。80%の貸付金は固定されたものである一方で、残りの20%は余資として、最高度の流動性をもって管理されるべきものである。この預貸率が50%程度まで減少したときに、減少分の30%を3~5年間程度の固定することは別段おかしいことではない。このように高度なリスク管理が、資産の一部を固定化せしめる余地を生む。長期投資は、経営の合理性から必然的に生まれてくるものなのである。

パブリックな市場機能を前提にしたリスク管理の限界
 経営能力の重要な要素であるリスク管理について、売れることを前提としたリスク管理と売れないことを前提としたリスク管理はまったく異なるものであることに注意しなければならない。例えば、融資は簡単には売れない前提に立っており、自分の都合で回収できないので貸出が行われるまでの入口管理が厳格に行われなければならない。一方で、高い格付がなされている社債の購入は、購入することは簡単だが、出口管理が厳格に行われなければならない。金融危機に見られたように表面的な流動性の前提が常に機能するということはない点に注意されたい。

プライベートな関係性の中での情報の対称性
 事業への投融資においては、生きている事業が将来生むキャッシュフローこそが重要であり、過去を示す干からびた財務諸表は重要ではない。生きている事業をイカ、財務諸表をスルメとすると、プライベートエクイティ投資はイカを生きたまま料理しようという試みであるといえる。また、ある企業が発行した有価証券は、券面に書かれていることだけが事実であり、生きている胴体のほんの一部を表しているに過ぎない。券面に書かれた以上の内容を人に伝えることは、規制の対象であり、一人に伝えたいならば全員にも同じことを伝えなければならないという資本市場のルールがあるため、パブリックな市場には情報の非対称性が常に存在する。情報の非対称性を前提としている有価証券運用と、情報の非対称性を対称的なものへと近づけていく努力を前提としているプライベートなものの運用のどちらがより高度なリスク管理が可能か、どちらが運用としてより妥当なものか、よく考えていただきたい。

プライベートエクイティのファンドの「ハンズオン」の意味
 プライベートエクイティファンドを利用することで「ハンズオン」の恩恵を受けることができる。非公開企業は外部のプロフェッショナルを自分で用意しなければならないが、プライベートエクイティファンドはそれらの機能をすべて用意して提供することができる。このようなサービスの享受を目的として自分で資産を持ち続けているよりもプライベートエクイティファンドに持分をいくらか譲渡して価値を高めてもらう、いわゆる「ハンズオン」を利用する事例も少なくない。

非流動資産の構造化(安定キャッシュフロー化)
 長期運用における流動性とは、安定したキャッシュフローを生む仕組みに構造化することである。そのような仕組みを築くためには、非流動資産への投資を始めてから10年程度の時間が必要になる。1000億円をコミットしようとしても、コミット額は初年度の純投資額はせいぜい数十億円程度のものになる。2年目になると、別のものへのコミットが進むと共に初年度の投資案件のコールが進み、100億円を超え始める。このようにして3年目、4年目・・・と続き、5年目から初年度の投資案件の分配が行われ始める。10~12年目を過ぎると、純投資額が1000億円程度になり、この1000億円の純投資の塊からインカムが安定して得られる状態になって、やっと運用が始まるというのがプライベートなものへの投資である。
 アメリカの巨大なファンドが容易く数千億もの資金を集めることができるのは、投資家が安定したインカムを生む巨大な資金の塊をすでに持っているからである。一方で、日本ではそのような資金の塊はできていない。アメリカにそのような塊がすでにあるならばそれを利用すればよいという意見もあるかもしれないが、為替リスクに対処しなければならない。小さくてもよいから、ターゲットを持って毎年コミットしていくことで日本の中にそのような基礎を作るということに早く取り掛かって頂きたいと考えている。



以上

(文責:和田 多田)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。






■セミナーで実施したアンケートの集計結果

Q1. 平均的な年金基金にとって、流動性の低い資産の組入れに上限を設けるとしたら、総資産の何パーセントくらいが適当だと、お考えでしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。

<クリックで拡大>
1.5%以下
2.10%以下
3.20%以下
4.30%以下
5.50%以下
6.そもそも上限など不要

Q2. もしも、流動性の低い資産を投資対象として積極的に検討するとしたら、その魅力は、どのような点に、見出されるのでしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。


<クリックで拡大>
1.ユニークな投資機会にアクセスできる
2.相対的に、流動性の高い資産に比べて、割安である
3.時価評価による影響が小さい
4.債券や株式との相関が低い
5.運用者による付加価値(バリューアップ)を期待できる
6.その他

Q3. 逆に、流動性の低い資産は投資対象として積極的に検討し難いと思われる場合、その主な難点は何でしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。


<クリックで拡大>
1.不測のキャッシュフローに備えた売却可能性が不足する
2.資産全体のリスク管理の観点で、売却によるリスク調整が困難となる
3.時価評価がなされないので、資産の適切な管理ができない
4.運用者の技術に依存する度合いが大きすぎる
5.成果が出るまでの時間が長すぎる
6.わかりにくい
7.その他