「TSUNAMI」に関わりはじめた頃に、「ベンチャーとは何か」ということを真剣に話し合いました。その時の結論として出したのが「革新性・新規性・成長性」というキーワードです。何か新しいもの、新しい価値観を作り出すものがベンチャーだと思ったわけです。
また、「投資に対しては得意の分野をもっているのでしょうか」とよく質問されるのですが、私自身がそうであり、TSUNAMIネットワークパートナーズの投資対象もそうなのですが「テクノロジー」と「サイエンス」にこだわり続けています。これは私が理系の出身だからというだけではありません。リターンが大変大きなものになる可能性があるからです。実際に半導体の世界の例がそうですね。ショックレー研究所によるトランジスタの発明など技術のブレイクスルーが起こるとハードが変わる。ハードが変わるとソフトが変わりアプリケーションも変わり、ビジネスのやり方も変わっていきます。経済的波及効果もとても大きくなります。ベンチャーキャピタルとしてここをちゃんと押さえたいと思っているのです。
「TSUNAMI」は神奈川県の協力を得てできあがったプラットホームですが、どんな人にでも参加していただけるようになっています。様々な人がここに来ることで自分達にはない感性が加わります。さらに多くの人との情報交換により「最近こんな話題が多いな」という社会や技術のトレンドがつかめたり、ビジネスのマッチングのヒントを得ることもできるようになります。そのためにも、多くの人々に門戸を開いています。
そのためにも「相手を否定的な目で見ないこと」、どんな相手に対しても「Yesから入る」ことを自分に課しています。日本の金融機関は、信用力のある大企業に対しては「Yes」から入りますが、ベンチャーに対しては「No」から入る例が多いですからね。Yesから入るからこそ、多くの人が集まってきてくれるのだと思います。
やってくる人の中にはマーケットがすでに成熟してしまい成長の余地がほとんどないビジネスの事業計画を持ってくる人もいます。そのような人も、次にはユニークな事業計画を持ってくるかもしれない。だから、「あなたの狙っているマーケットはこっちに動こうとしているのではないか」といって相手に一考を促すようにし、再度トライアルしてもらえるようにお話しをしてお帰りいただくようにしています。
経営者は十人十色です。ベンチャーの経営者とお話しをするととてもユニークな方が多い。そして彼らに共通しているのは、それぞれが心の内に熱い思いを持っているということです。私たちは、そうした人たちの思いが本物に育っていくかどうかを判断し、そのお手伝いをする責任を担っています。
日本のベンチャー起業家に多いパターンは、「こんなことができます」といろいろな技術を持ってこられる。しかしマーケット側から見ると、とてもビジネスにはならない実現不可能なものが多い。どこをターゲットにして絞り込むのかが大切です。そのためにも、絞り込んでいくための情報の収集や技術の発展する方向、マーケットの動向などをしっかりと見てほしいですね。ベンチャーを目指す人はMOT(技術経営)の勉強をもっとしてほしいと思います。
もう一つ大きな誤解にデファクトスタンダードを達成してから上場したいと考えている人が多いことです。これは実は大変難しいことで、実際に成長したシリコンバレーの企業を分析してみても、上場してからが勝負なのです。コアの技術を磨き続けて一つでも二つでもどこかに採用してもらう。その実績をもとに上場して、そのことをバネに周囲により強く働きかけていく。こういうプロセスを経ないとベンチャーが成長するのは無理だと思います。ところが日本のベンチャーは、そこを勘違いして上場する前に技術にこだわり、その幅を広げようとして失敗してしまう。大切なのは一本か二本の強い柱を作ることだと思います。
ベンチャー起業家の中には、マーケットのことが頭にない状態で「投資をしてほしい」と言ってくる人がいます。どこに売りに行くのか、誰に受け入れられるのかを考えずに来るのです。ベンチャーキャピタルが投資するかどうかを判断する最も大きなポイントは、目指すマーケットへのポテンシャルがあるかどうか、将来の絵が描けるかどうかという点です。いくらユニークなビジネスモデルでも、マーケットが見えないかぎりは投資の決断はくだせません。
しかしマーケットの見方は読みにくいというのも事実です。私たちは「ある」「ない」「大きい」「小さい」などを独自に判断していますが、これが間違っていることだってあります。実際にビジネスを始めてみて違っていたこともありました。その時は調整する必要が当然出てくる。しかし、そんなときでもマーケットの動く方向性を確認し続けるということは忘れないでしっかりと持っている必要があります。また、間違えたとしても、そこから「何か」を学びとることができればいいのですから。
数字が伸びない、頭打ちになってしまうというのは、企業の発展段階には良くあることです。たとえば、事業計画を立て、その目標を達成できなかった。そんなときちょっとした嘘をつきたい衝動に駆られることがあります。しかし、それは絶対にしてはいけないことです。目標を達成できなかったなら、とことん突き詰めてどこが間違っていたのかをしっかりと分析し公表したほうがいい。するとちゃんと評価してくれる金融機関もあります。「この会社は自分の間違いを修正していく力を持っている」と判断して、逆に高い評価を得られる場合もあります。
ベンチャー起業家にはかならず、なぜその事業をやりたいのかと訪ねるのですが、中に「社会貢献をしたいから」と答える方がいます。しかし、私は、「リターン」を生み出す企業活動そのものが社会貢献だと思っています。ビジネスにおいて一人勝ちする企業はじつは生き残れない。サービスが売れているということは、誰かが喜んでくれている、社会に必要とされているということで、それこそがビジネスなのです。つまり顧客や社会との間にWIN-WINの関係を作ることです。そのなかでリターンを出すことが本当の社会貢献ではないでしょうか。そこに行く前に「社会貢献」を語る人は、どこか順番を間違えているとしか思えませんね。(了)

