新・三井住友銀行で一番売れている投資信託

新・三井住友銀行で一番売れている投資信託

森本紀行
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現在、三井住友銀行で一番売れている投資信託は、「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド」というものです。三年前に同行で一番売れていた投資信託と比較するとき、そのあまりの変化に驚きます。この三年間、金融庁が強力に推進してきた投資信託改革ですが、この新商品、さても、その顕著な成果といえるのか。
 
 三年前の2014年10月16日、この同じところに、私は、「三井住友銀行で一番売れている投資信託」という論考を公表しています。これは、金融庁が進める投資信託改革を応援するために放った一撃でしたが、大きな反響を呼び、三井住友銀行のみならず、業界全体について、類似の劣悪商品を売り止めに追い込むことができました。痛快の極みでありました。
 
三年前、三井住友銀行で一番売れていた投資信託とは、どのようなものであったのでしょうか。
 
 「欧州ハイ・イールド・ボンド・ファンド(豪ドルコース)」という名称で、主として、欧州の低格付の社債に投資するものです。低格付の社債ということは、信用リスクが大きいということで、故に表面利回りが高くなるので、それを片仮名でハイ・イールド・ボンドと呼んでいるわけです。
 個人投資家向けの投資信託にして、欧州の低格付の社債という必ずしも大きくない特殊な領域に特化するというだけで、既に十分に危ない雰囲気を漂わせているのに、さらに奇怪なことには、もともとの通貨が欧州だけにユーロと英ポンド主体なのを、わざわざ豪ドル建てに転換しているのです。これでは、投資というよりも投機に近く、その故もあってか、法外に高い販売手数料がかかるうえに、高水準の信託報酬までとられるのです。
 なぜ、このような醜悪な投資信託が売れるのかというと、表面利回りの高い債券に投資するうえに、さらに高金利な通貨に転換することで、表面的な金利収入を引き上げて、高水準な分配金の支払いを実現しているからです。しかし、分配金は表の見せ金のようなものであって、裏には元本毀損の大きなリスクを伏在させているのですから、実態は詐欺にも近いと断定したくなるようなものです。
 
そのような類似商品が三井住友銀行だけでなく業界全体に蔓延していたのですか。
 
 私は、「三井住友銀行で一番売れている投資信託」に続けて、11月20日には、「野村證券の投資信託はもっとすごい」を公表しましたが、ここでは、当時、野村證券で一番売れていた「アムンディ・欧州ハイ・イールド債券ファンド(トルコリラコース)」を俎上にあげて、徹底的に批判しました。これは、名称に明らかな通り、三井住友銀行のものと同工異曲で一段と醜怪にしただけのものです。
 その他、当時の業界は、日本株のアクティブ運用をブラジルレアル建てにしたものだとか、とにかく、出鱈目が横行し、目を覆うばかりの惨状を呈していたわけです。当然のことながら金融庁の怒り極に達するも、妙に小利口な業界は、実態の出鱈目にもかかわらず、表層的な法令遵守は徹底しているので、金融庁も動きようがなかったのです。そこで、言論の力を振るったところが、思いがけず、効果絶大、類似商品の多くは事実上の売り止めとなったのでした。
 
それから三年、業界も、少なくとも表向きは随分と綺麗になりましたね、隔世の感ありですか。
 
 金融庁の進める投資信託改革は、森信親長官のもとで、急速に、かつ業界の深部にまで浸透してきています。三年前の狂乱は、今では遠い昔のようです。そして、その大きな変化を象徴するものこそ、この2017年11月初頭において、三井住友銀行で一番売れている投資信託であって、その名は「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド」、愛称「あんしんスイッチ」というのです。
 
運用の中身に入る前に、まずは比較対照として簡単なところからいけば、販売手数料等は、どうなりましたか。
 
 販売手数料はありません。三年前の一番の売れ筋では、税抜で3.5%もとっていたのに。信託報酬は、税込で1.2204%ですから、他の投資信託と比較しても、決して高くはありません。ただし、これが特色なのですが、別途、0.22%の保証料がかかります。それを合わせても、年率の信託報酬等の総額は1.4404%ですから、少なくとも他との比較においては、妥当な水準に抑えられているといえるでしょう。
 
保証料がかかるということは、元本保証があるのでしょうか。
 
 投資信託ですから、元本保証はあり得ません。投資実績に応じて、元本価値は変動する、それが投資信託の本質であって、この「あんしんスイッチ」も例外ではありません。ここで保証というのは、元本保証ではなくて、元本価値の90%を保証するということです。
 より具体的にいえば、日本の投資信託は基準価額10000円で始まるのですが、それが下落して9000円に達したときには、9000円の基準価額をもって償還するという仕組みなのです。そして、この9000円という最低保証価額のことを、「あんしんスイッチ」では、「プロテクトライン」と呼んでいます。こうした最低保証は、三井住友銀行によれば、日本の投資信託業界では初だそうです。
 
分配金は、どうなっているのでしょうか。
 
 分配金の支払いは、分配可能額を投資運用業者の裁量で処分するものですから、よくわかりませんが、この特異な投資信託の設計理念に従う限り、無分配が前提となっているのだと思われます。
 分配金については、表面的な利回りを高くみせる結果、真の投資収益を誤認させる可能性があるだけでなく、分配金を再投資することによる長期的な投資効果を放棄するものとして、金融庁が問題視しているわけですし、先に述べた三年前の三井住友銀行の売れ筋投資信託のように、分配金を確保するために運用内容が歪む弊害も大きいのですから、分配金を謳わない「あんしんスイッチ」は、ひとつの見識を示すものでしょう。
 
「プロテクトライン」があるということは、保守的な運用を想像させますが、期待収益率の狙いは、どのくらいなのでしょうか。
 
 収益率は結果にすぎませんから、期待値を提示できるものではありません。しかし、この「あんしんスイッチ」は、その点、巧妙な仕掛けがあります。その仕掛けとは、運用実績によって、「プロテクトライン」が引上げられるようになっていることです。つまり、基準価額が10600円に達したときは、「プロテクトライン」が10000円になるのです。なお、名称に「スイッチ」とあるのは、この「プロテクトライン」の変更を意味しているようです。
 実は、「あんしんスイッチ」の運用会社であるアムンディは、同様の商品を母国のフランス等で運用しているのですが、その実績をもとに、「旗艦ファンドの過去の実績を用いた検証を行ったところ、プロテクトラインが9000円から10000円になる条件(基準価額が6%以上上昇)を5年以内に達成した割合は80%を超え、6年以内に達成した割合は90%を超えました」と営業資料には書かれていて、要は、年率で1%強の収益率になる蓋然性が高いとしているのです。
 
なるほど、1%の期待収益率で元本の90%保証ですか、魅力ありますね。
 
 例えば、限りなくゼロ金利に近い長期国債を保有することに比較すれば、金利上昇に伴う価格下落の可能性を考えるとき、相対的魅力度の高さは明らかです。三井住友銀行の売れ筋第一位になるのも頷けます。
 
具体的な運用戦略の中身は、どうなっているのでしょうか。
 
 営業資料によれば、「世界の株式、債券および短期金融資産など、さまざまな資産へ投資し、資産配分を機動的に変更することにより、基準価額がプロテクトラインを上回るように運用しつつ、安定的な収益の獲得を目指します」とのことですが、要は、上手に運用しますという以上の意味はなく、80%以上の確率で、基準価額が5年以内に6%以上上昇するというところで、話は全て終わっているのです。
 こうして、極めて営業しやすい構造になっていることも、売れ筋第一位になる重要な条件なのだろうと思われます。
 
うまい話の裏に、落とし穴があったりはしませんか。
 
 別に、三井住友銀行を応援するつもりもありませんが、この投資信託の特性は上に述べたことに完全に尽きているのであって、それ以外には何もなく、落とし穴などあろうはずもありません。よく工夫された投資信託です。この三年間で激変した三井住友銀行に敬意を表しておきましょう。
 
そうはいっても、いいたいことがあるでしょう。
 
 敢えていえば、「プロテクトライン」を外しても十分に面白い投資信託になるだろうとは思います。基準価額が5年以内に6%以上上昇する確率は保証の有無には関係が少ないと思われますから、保証を外せば5年間の累積保証料の1.1%が浮くので、基準価額は7.1%以上に上昇するはずです。そのほうが魅力的と感ずる人も多いのではないでしょうか。80%以上の確率で基準価額が6%以上上昇するというとき、元本の90%保証に大きな意味はないようですが。
 
いいたいことは、もっとあるはずですが。
 
 では、1000万円を預金から引き出して「あんしんスイッチ」に投資することと、100万円だけを預金から引き出して、その100万円を160万円に増殖させる工夫をすることとを比較してください。5年間で100万円が160万円に化ける確率を80%以上にできれば、二つのことは全く同じ価値をもつでしょう。逆にいえば、「あんしんスイッチ」のなかの実際の運用で実現しようとしていることの意味も、この対比により理解されるはずです。
 
なるほど、そう考えれば、なんとなく、年率0.22%という保証料の根拠もみえてきますね。
 
 金融理論的に、あるいは数学的に、保証料は、「あんしんスイッチ」のなかの実際の運用においてとるリスクの総量により算定されます。しかし、具体的な運用内容に付随するリスクは外からはわからないので、その等価物をつくり、思考実験をするほかありません。等価物は、100万円を160万円に増殖させるためとしなければならないリスクです。
 しかし、100万円を160万円に増殖するためにとるリスクにおいて、100万円が無に帰する可能性を考えることは現実的ではないので、例えば、200万円が5年で260万円に増殖する確率を80%以上に維持しようとするとき、一時でも100万円を下回ってしまう確率についての数学的検討から0.22%という保証料が算定されていると考えれば、より具体的な感覚的理解を得ることができるでしょう。
 
それで、年率0.22%という保証料は妥当なのでしょうか。
 
 私の感覚を述べることは控えますが、個人の趣味嗜好からいえば、先に述べたように保証を外して期待収益率を引き上げたほうがいいと思いますし、1000万円全体に信託報酬を払うことも無駄な感じがするので、900万円を預金に置いたまま、5年間で100万円を160万円にする努力に励みたいところです。
 
以上

 
 次回更新は、11月16日(木)になります。
≪ アーカイブから今回に関連した論考 ≫
2014/12/04掲載「激変、三井住友銀行の投資信託
2014/11/20掲載「野村證券の投資信託はもっとすごい
2014/10/16掲載「三井住友銀行で一番売れている投資信託
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。