不透明な金融情勢下でのPrivate Equity Fundの戦略と実務
(その3. PEファンドによるDeal Executionのさまざまなノウハウ)

植田兼司
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<a href="http://www.fromhc.com/column/2009/06/post-38.html">その2.PEファンドによるDeal Sourcingと対象企業へのApproachのノウハウはこちら</a><br /><br />○どのように企業価値を評価するか

 今回は、PEファンドによるDeal Execution(執行)について、いくつかの留意点を記しておきたい。まず、Valuationであるが、基本はEnterprise Value(時価総額+長期・短期のDebt)が、EBITDA(Earnings Before Interests, Tax, Depreciation & Amortization=償却前営業利益)に対して何倍なのかをチェックする。好況期には、この倍率が上がり、不況期にはこの倍率が下がる。一般的に5~6倍以下なら検討の俎上に乗り、7~8倍を超えるようであれば敬遠される。通常の株式投資ではPER(株価収益率)が重要な指標となるが、企業買収では、営業Cash Flowを中心とした分析となり、上記のEBITDA Multipleと呼ばれる倍率が基本となる。このEBITDA倍率を同業他社と比較して、また最近の他のDealと比較して割高、割安を見極めていく。業績見通しが明るいほどValuationが高いのは当然として、そのほか①被買収企業の規模が大きいほど、②34%→51%→67%→100%と取得株数が増えて経営権が強固になるほど、③売り手の売却意思が薄弱なほど、④タフな競合相手がいるほど、⑤事業会社であれば自社のBusinessとのSynergyが認められるほど、Valuationは高くなっていく。

○Due Diligenceの要点と目的

 次に、Dealを進めるProcessで重要なのがDue Diligence(対象企業の精査)である。これは、法務、会計、税務、環境などさまざまな観点から対象企業の問題点を洗い出すもので、Valuationにも影響する。大きく分類すると①Management Teamの評価(経営哲学・戦略、Management能力、組織運営、従業員や組合との関係など)、②財務諸表分析(Cash Flow 分析を含む)、③法務をはじめとするRisk Managementのチェック(訴訟、年金債務、環境問題など)、④事業の分析(売上高、部門別収益、価格戦略、顧客、製品など)、⑤R&D分析と技術評価(知的所有権評価を含む)、⑥製造・調達の評価(工場の生産性評価、稼働率、設備投資額、調達先など)、⑦営業力評価(営業網、顧客動向、出荷・販売チャネルなど)等のDue Diligenceとなる。なかでも大切なのはBusiness Due Diligenceで、筆者のファンドではまずこのBusiness Due Diligenceをさせていただき、その上で対象企業の成長戦略とPEファンドとして何が提供できるかというProposalを提出する。そしてそれが売り手と対象企業の経営陣にとって納得のいくものであれば、Exclusivity(排他的交渉権)をいただいて通常の法務・会計等のDue Diligenceに入る。何より大切なのは、対象企業がどのように成長することが可能かということで、これを抜きにしての精査は無意味である。

○Leverageを効かせたDeal Structuring

 DealのStructuringについても述べておこう。通常、PEファンドは買収する時に、Enterprise Value(企業価値)を100とすれば、そのすべてを株式投資で賄うことはしない。つまり、Debt(銀行借入)とEquity(株式)を合わせて100の調達にする。例えばBuyout Financeがうまくまとまって、70をDebt、30をEquityというふうに、Leverage(Equityに対しDebt 2.3倍というテコ)を働かせたとする。そしてそれから3年間、その企業がCash Flowを生み出して毎年10ずつ借入元本30を返済したとすれば、3年後はDebtが40に減り、企業価値100が不変ならばEquityは60となる。つまり、株主価値は3年で30から60に増加したわけで、IRR(内部収益率)は年率26%となる。このようにEquityにBuyout FinanceによるDebtを組み合わせ、Leverageをかけることによって、Equityの収益率を高めることができる。目標IRR 20%のPEファンドが多いが、その高い水準にはこういうStructuringがベースにある。しかしながら、Subprime Loan問題に端を発した欧米金融機関の行き詰まりからBuyout Financeが困難になってきていることにより、これまでのLeverageに依存したStructuringが成立しずらく、いっそう対象企業の成長Potentialの見極めが大切になってきている。

○Buyout Financeの建付けはDealの要衝

 Buyout Financeは、Tibor+2.5~3%・期間5年程度・被買収企業の全資産担保のSenior Loan、もしくは期間6年強・無担保のMezzanine FinanceとのCombinationが一般的。Mezzanine Financeは、4~5%のHigh Yield債とUp Sideの狙えるEquity Kicker(株式転換権)を組み合わせることが多い。筆者の皮膚感覚では、海のものとも山のものともわからないProject Financeと比べて、幾度となく危機を乗り越えてきた“伸び悩む老舗”のBuyout Financeの方がRisk Returnの観点からは妙味があるように思われる。Finance契約では銀行は厳しいCovenants(契約条項)を要求してくるだろうが、Post Closingの経営を考えたら、できるだけ緩いCovenantsとすべく交渉するのがPEファンドの務めであろう。将来CovenantsがHit(契約違反)した時、それをRecoverするPEファンドの労力と対象企業のCostは相当なものであるから。

○TOB(公開買付)と情報管理の徹底

 次にTOB(公開買付)について。上場企業の発行株式の33.4%以上を取得するときは、株主平等の原則に基づいてTOBによらなければならない。株価は動くゆえに、上場企業の買収は非上場企業の買収よりも難しい。通常、MOU (Memorandum of Understanding)締結時に、公開買付価格を概ね決めておくことが多いが、そのあとの株価変動が買収価格に影響するため売り手にとっても買い手にとっても神経をすり減らす。情報管理を徹底するために、関係者MeetingではConfidentiality Agreement(秘密保持覚書)を結ぶが、参加者の所属組織のサインではなく、参加者個人のサインを取り付けることが心理的にも効果がある。Dealに携わる人間を絞り込む企業は信頼がおけ、円滑にDealが進むことが多い。その逆に、Kick Off Meetingで10人以上の人が出てくるような企業を相手にするときは、情報管理に相当気をつけることが必要だ。公開買付価格は、市場の株価にPremiumを乗せることが多いが、20~30%Premiumが許容範囲で、50%を超えるPremiumも時々見られるものの、Synergy Premiumをつける事業会社ならともかく、PEファンドではとても投資採算に合わない。

○有効なCo-investment、二つの形

 Co-investmentについても述べておきたい。ひとつは、PEファンドとして大きすぎる規模のDealをするときに他の投資家をCo-investorとして招くClub Deal。リスク分散の観点からも有効である。Ripplewoodによる長銀のDealでは、10社を超えるConsortiumを形成している。Co-investorからみたメリットは、Deal Makingのコストを節減しつつ、真剣にRisk TakingしようとしているAgentのPEファンドに賭けるのは悪くはないということだ。海外には、Co-investmentを専門にするPEファンドさえあるほどである。もちろん、このDealを進めてきたAgentのPEファンドは、Co-investorに将来のCapital Gainの20%のCarried Interest(成功報酬)を要求する。なお、議決権はAgentのPEファンドに預けられることが多い。
 もうひとつは、経営陣によるCo-investmentである。通常、経営陣へのIncentiveとしてStock Optionが付与されるが、さらにCo-investmentをしてもらうことによって、「自分の懐を痛める」という意味で本当に「同じリスクの船に乗る」ことになる。企業が苦しい時ほどCo-investmentによる経営陣との運命共同体化が有効になることを筆者はしみじみと経験している。


次回の更新は7/13になります。



■関連項目■
6月25日(木)公開マネジャミーティング・いわかぜキャピタル(日本株PE戦略)
植田兼司

植田兼司(うえだけんじ)

いわかぜキャピタル株式会社代表取締役CEO

1952年生まれ。1974年3月関西学院大学経済学部卒業。同年4月東京海上火災保険に入社、25年間資産運用部門にてグローバル運用のヘッドを務めるなど国内外の投融資全般に携わる。1999年よりRipplewood Japanの創業メンバーとして、我が国草創期のPEファンドビジネスに参画、2002年よりマネージング・ディレクター、2005年より2007年11月までRHJ International Japan(旧リップルウッド)の代表取締役を務めた。2008年2月に独立して、いわかぜキャピタル(株)を立ち上げ、同年8月にPE投資をスタートし今日にいたる。2001年~2009年、東洋大学経済学部講師(金融リスク管理論)。著書に「M&A Q&A」(1987年・六法出版、共著)、「21世紀・日本の金融産業革命」(1999年・東洋経済、共著)がある。