不透明な金融情勢下でのPrivate Equity Fundの戦略と実務
(その2.PEファンドによるDeal Sourcingと対象企業へのApproachのノウハウ)

植田兼司
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • mixiチェック

<a href="http://www.fromhc.com/report/2009/06/post-10.html">その1.PEファンドの骨子と我が国における浸透はこちら</a><br /><br />○はじめに

今回は、PEファンドのさまざまなActivityのうち、いかにしてDealを見つけるかというDeal Sourcing(Deal探し)と対象企業へのApproachについて述べてみよう。まず当然のことながら、Deal Sourcingの巧拙はそれぞれのファンドのPerformanceに直結する。米国では、投資銀行がPEファンドの希望を聞きながら、Long List、Short Listを提出し、PEファンドは投資銀行主催のAuctionに参加するというのが一般的。これに対して日本では、証券会社、商業銀行、Brokerage FirmのようなIntermediary(仲介者)を使うだけでなく、独自のルートでDealを探り当て、水面下で組み立ててAuctionによる割高Dealを回避することも往々にしてある。それこそがPEファンドにとっての腕の見せ所だろう。

○Screening作業による対象企業の絞り込み

筆者は基本的にIntermediaryを使わない。それは、Dealの要諦は「時間をかけないこと」と「関係者を増やさないこと」であるから。筆者のやり方は、相当数の企業を、売上高(サイズ)、Enterprise Value(企業価値)、EBIT(営業利益)、EBITDA(償却前営業利益)、EBITDA Multiple(企業価値のEBITDAに対する倍率)、事業内容、株価推移、大株主、役員構成・年齢、取引銀行、株価推移など15~16の定量・定性指標からScreeningし、最終的には”Interest”(その会社に興味があるか)と”Opportunity”(その会社は売りに出る可能性があるか)の二つを満たす会社を対象企業として選び出す。それからその企業の推定Key PersonにCold Callし、訪問のAppointmentを取り付ける。このCold Callは、初めて話す相手にPEファンドの概略を説明して安心感を与えながら、会ってみようかという気持ちにさせることを2~3分で達成する難易度の高いものである。

○Cold Callによる対象企業訪問

こうしてAppointmentを取り付けた対象企業を訪問するときは、当該企業のSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析のほか、成長戦略のあらましと自分たちPEファンドが何を提供できるかを詰め込んだPitch Bookを携えて渾身のPresentationを行い、同時に対象企業の本音を探りだす。年間こういう形で20~30社を訪問し、第2ラウンド、第3ラウンドと進んでいくうちにそれが2~3社まで絞り込まれていく。しかしながら、例えDeal Closingまで至らなくとも、「一生懸命わが社のことを考えてくれるファンドがあるものだ」というよい印象を与えて別れることができればもうけもの。そういう関係の蓄積が宝物であり、筆者の経験でも再度別のDealで復活することがままある。かつてKKRの草創期にLos AngelsのHarry RomanというBrokerがKKRにDealを紹介してKKRの基礎を築くのに貢献した話は有名であるが、Intermediaryを使わずに開拓する対象企業のネットワークこそ、そのPEファンドの財産である。

○大企業とOwner企業の行動原理には違いがあることを理解せよ

Deal Opportunitiesとしては、①大企業のNon-Core事業の整理、②独立志向経営者によるMBO、③更生会社の再建、④後継者問題を抱える、あるいはCapital Gainの実現を図るOwner Family企業などさまざまである。しかしながら、大企業とOwner企業ではDealのProcessにおける思考と行動にかなりの差があることを認識しておきたい。大企業では、縦割り組織になっているため、Top Downで大ナタを振るえない限り、話は社内官僚の抵抗にあって進まないことが多い。またDeal Closing間近になって、他の買い手からより高いPriceが提示されようとも、数ヶ月間かけて社内をまとめあげてきた労力を思えば、担当者としてDealを白紙に戻すことに逡巡するということが大きなサラリーマン企業ではままある。それに対してOwner企業は全くその逆で、Closing三日前にDeal Breakされ、他のよりよい条件の買い手に持っていかれた苦い経験が筆者のTraumaとなっている。従って、ここから学ぶべきことは、「Dealはできる限り迅速に」そして「常に油断せず、相手が何を求めているか注意深く観察せよ」である。

○MBOの落とし穴に注意を

 次にMBO(Management Buy Out)について述べると、その動機は、①創業者が保有株のCapital Gainを実現するとともに、MBOを実施するSPCに投資し経営者としても残る、②子会社の経営陣が親会社から独立することを目的として行う、等があるが、ここに問題がある。ひとつは、現経営陣が同時にTOB(公開買付)における買い手になることから生じる利益相反の可能性(株主のために会社を高く売るべき経営者なのに、自分たちが買い手となって割安に買っていないか)、もうひとつは経営陣とともにMBOを行うファンド等の買い手がMBOを成功させるために無能な経営者を残すというリスク、である。PEファンドからすれば、経営者とともに実行するMBOは売り手や現経営陣を説得しやすいが、下手な経営者を残したらそれこそ2年の回り道になる。その逆に、PEファンドとして最も難易度の高いのが、「会社を売ってください、しかし社長さんは退陣してください」というProposalである。会社の浮沈の大方は社長で決まる。MBOの落とし穴にくれぐれもご注意を。
○Strategic Buyer(事業会社)vs. Financial Investor(ファンド)

ここでstrategic Buyer(自社の戦略に基づいて買収を進める事業会社)とFinancial Investor(PEファンド)との比較をしてみよう。Strategic Buyerは、対象企業との間に何らかのSynergyがあれば、買収価格にかなりのPremiumをつけるので対象企業の株主にとっては有利であるし、対象企業にとっても事業Synergyを生かせるという利点がある。しかしながら、Strategic Buyerはいわゆる同業他社であるから、対象企業にとって被買収後の経営の独立性が失われることは明瞭で、Strategic Buyerの成長戦略、国際戦略に組み込まれることは必至である。その点、PEファンドは、投資対象企業の成長こそがすべてであり、両者のVectorは一致しているし、対象企業にとって独立性を維持することが可能だ。一方、対象企業はPEファンドに対して常に「長期にCommitしてくれるか」「Exitでどこに売られるか心配」といった懸念を持っていることは事実であり、それを払拭する回答を用意せねばならない。例えば、First Refusal Right(PEファンドが将来示す売り先を対象企業がまず拒否できる権利)を付与するといった工夫である。いずれにせよStrategic Buyerは、PEファンドにとって相当の難敵であり、これに勝つのは容易ではない。2年前、不二家が衛生問題で窮地に陥ったとき、山崎パンが電光石火、マニュアルを携えたサポート部隊を不二家の工場に送り込んだのをみてその思いを強くしたことを思い出す。


次回の更新は6/29になります。


■関連項目■
6月25日(木)公開マネジャミーティング・いわかぜキャピタル(日本株PE戦略)
植田兼司

植田兼司(うえだけんじ)

いわかぜキャピタル株式会社代表取締役CEO

1952年生まれ。1974年3月関西学院大学経済学部卒業。同年4月東京海上火災保険に入社、25年間資産運用部門にてグローバル運用のヘッドを務めるなど国内外の投融資全般に携わる。1999年よりRipplewood Japanの創業メンバーとして、我が国草創期のPEファンドビジネスに参画、2002年よりマネージング・ディレクター、2005年より2007年11月までRHJ International Japan(旧リップルウッド)の代表取締役を務めた。2008年2月に独立して、いわかぜキャピタル(株)を立ち上げ、同年8月にPE投資をスタートし今日にいたる。2001年~2009年、東洋大学経済学部講師(金融リスク管理論)。著書に「M&A Q&A」(1987年・六法出版、共著)、「21世紀・日本の金融産業革命」(1999年・東洋経済、共著)がある。